沖縄やいま料理、民謡酒場「ゆがふ庵」にて・・・
沖縄やいま料理、民謡酒場「ゆがふ庵」にて・・・
去る平成15年3月20日、木曜日の晩。この日は、とても素敵な夜になりました。
合唱団のコラボ伴奏などで度々お世話になっている、今泉仁志先輩のアイリッシュトラッドを始め、
ロシアで歌われているフーメイ、クラシックソプラノ、小生の日本民謡、そして、
「ゆがふ庵」のご主人夫婦の沖縄民謡(厳密には八重山民謡)の唄と踊り、
これら全てを、沖縄料理を食べ乍ら一同に会そうという、スゴイ夜だったのですから!
この企画を直接プロデュースなさったのは、
西宮市民会館アミティーホール、財団法人西宮市文化振興財団の飯川大樹氏を始め、ご友人の田渕、谷岡両氏です。
飯川氏は小生の事を、今泉氏指揮の合唱団が出演する西宮市民音楽祭がきっかけで、ご存じでした。
さて一同が揃って、まずは自己紹介。次に沖縄のお酒「泡盛」で乾杯。
やがてご主人が腕を奮った沖縄料理が、時を追ってテーブルの上に所狭しと並びだし、
それぞれのお話も、次第に盛り上がりを見せてきました。
そんな折、飯川氏が「まずは言い出しべぇから・・・」と、ご趣味のケーナを取り出し、
田渕、谷岡両氏も同様に、数曲ご披露下さいました。
ケーナについては、数年前、このコラムで「スライド尺八の制作」についてお世話になった、
山口県在住の田中茂様の件をお話ししたところ、氏はケーナの世界では、知る人ぞ知る存在であった事が判明しました。
「ケーナでは田中さんは有名ですよ。でも尺八の改良を経験なさったとは知らなかった。今度お会いしたら、お話してみますよ」
という具合でした。なかなかに世間は狭いものです。でもジャンルを越えて様々な人達と出会えるのも、
音楽の持つ魅力の一つであることを、改めて実感しました。やはり、音楽は世界の共通語なのですね。
次に指名されたのは、フーメイの等々力政彦氏。
長野県の民謡の盛んな地域のご出身なのですが、学校で日本民謡をピアノで唄わせる音楽の先生に抵抗を感じ、
学生になってから単身ロシアに渡り、独特の発声法で知られる「フーメイ」を習得したという、ユニークなお方です。
「フーメイ」とは単純に言うと、だみ声のような声で唄う民俗音楽です。
聴いているとやはり、大陸の広さ、時間の流れの悠久さが漂う感じがします。小生は初めて聴くフーメイに感心していました。
が、何より、氏の博学才英ぶりには舌を巻きましたね。日本民謡についても滔々と述べられ、
それだけにとどまらず、その範囲たるや、言語学から、文化人類学から、勿論音楽学に至るまで・・・
流石は大阪大学の学生さんだなぁと、感心も得心も致しました。
次に、小生の番が回ってきました。
お店には尺八が8寸管と6寸管があったので、まずはデモンストレーションと思った矢先、
ご主人が日向木挽唄を唄い出したので、即、伴奏と囃子をつけて、一同の雰囲気はガラッと変わりました。
そこで小生はそれに対抗(笑)すべく、同じ唄を違う歌詞で唄ったあとに続いて、津軽山唄を唄いました。
また、津軽山唄の歌詞が持つ意味を、有職故実を絡めて解説しました。
「冬は真白く春蒼く、夏は墨染め秋錦」・・・なぜ冬から始まっているのか? 季節は「春夏秋冬」と言うのに。
答えは「1月は冬から始まるから」です。
寒い冬から芽生えの春、盛りの夏を越えて実りの秋でハッピーエンド。だから1年は楽しい、
天は、人間が楽しく暮らしていけるようにこの世を拵えたのだから、という具合です。
他にも色々蘊蓄を垂れましたが、ここではオミットしておきます。
また、自分の三味線は持って行かなかったのですが、お店にある三線(さんしん)を初めてさわらせて戴きました。
蛇皮線(じゃびせん)という呼び方もありますが、これは差別的な意識を含んでいるということから、
昨今ではもっぱら「三線(さんしん)」が一般的です。
バチは、大きな鳥の爪のような形をしていて、人さし指を始め3本の指で、軽く握ります。
構え方は、三味線ほど大きくないので腕を置くだけで充分でした。そして何より特徴的なのは、
やはりその音です。一音「テン」と鳴っただけで、如何にも「沖縄」ですね。
初めての三線で「安里屋ユンタ」を唄いました。もっとも正式名は「新安里屋ユンタ」になります。
宮良長包(みやらちょうぼう)氏が現代風にアレンジしたものが一般に流布されているのであって、
現地では沖縄方言で唄われる長篇の叙事詩だからです。
すると今度はその三線でもってご主人が再び、原曲の安里屋ユンタを唄って下さいました。
それは、歌詞は勿論のこと、構成もテンポも伴奏も異なる、全く違った民謡といっていいほどでした。でも、
現地のナマを直接拝聴できた貴重な体験であり、嬉しかったです。
次に、アイリッシュトラッドの今泉先輩の番でした。
小生にとっては馴染みのあるもので、久しぶりにバリトンによるアイリッシュを、楽しく拝聴させて戴きました。
伴奏は、ヴァイオリンの前身にあたる「フィドル」という楽器で、奥様の大塚まゆみ先生でした。
一見、ヴァイオリンとフィドルは同じに見えますが、あご当てがなかったり、奏法など、細かな点でやはり異なります。
音色も比較的素朴で「トラッド(古くから伝承されているもの)」と呼ぶに相応しいものでした。
更に、ソプラノの喜多女史の番になって、飯川氏が予め用意なさっていた「さとうきび畑」を、
途中から加わった、元NHK体操のお兄さん、米田和正氏のギター伴奏で歌われ、
再びご主人の賑やかな三線と奥様の踊りで盛り上がり、最後は全員のコラボで幕となったのでした。
店を出る時、ご主人や奥様と親しくお話しができ、またの来店を約束させて戴きましたが、
震災でご苦労をなされ、ふるさとに帰りたくても帰れない・・・そんな思いを唄にして唄って下さったご主人のお人柄、
なめらかで高く静かな声で、しみじみと三線の弾き語りをして下さった奥様、
この日一番印象に残ったのは、やはりご夫妻でした。小生にとっては、
南方系の民謡と接する機会と場所が与えられたようで、とても有難かったのですが、
それよりもご夫妻と出会えたことが、何より嬉しかったのでした。
美味しいお料理と、暖かいお人柄を求めて、また行きたいと思っています。