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The Workshop for Mr.Julian!

The Workshop for Mr.Julian!

英語のタイトルは初めてですよね(笑)

ワークショップの内容は勿論、日本民謡です。
オーディエンスは、オーストラリア人で、現地の高校の国語(英語)教師の、Mr.Julianと、ご夫人のMrs.Cris、そして今回をプロデュースして下さったご家族の皆様と、そのお知り合い方々です。
 題して、「お土産用! 日本民謡ワークショップ」英訳では、The Souvenier! Let’s try & enjoy ♪Nihon-minyo♪

ジュリアン夫妻へのお土産

 ジュリアンご夫妻は、今回プロデュース役のご家族の長女さんが高校時代、1年間のホームステイに行かれた先での、ホストファミリーです。ジュリアン氏は高校と交換留学生の提携をしておられるので、氏も現在でも、オーストラリアから日本に留学生(高校生)を送り出しています。私が氏とお会いするのは、実は今回が二度目でした。

 前回初めてお会いした二年前、私の職業の話題になった折り、
「楽器を持って来てくれれば良かったのに」
と、おっしゃっておられました。

 そこで今回、再来日するにあたって、ご家族から「どこかいい観光地はないかしら?」と打診されたのですが、手前味噌ながらと「お土産に日本民謡を覚えて帰って戴くという企画は如何?」と、提案したのです。それは彼女からE-mailを通じて来日前の氏に伝わり、「とても楽しみにしている!」とのことで、この度の運びと相成ったのです。

 当日を迎えるまでに、まず私がワークショップ用の冊子を作りました。

外国人に「日本民謡」を理解して貰うために作るのは、初めてのことですが、まず初めの頁には、日本の祭りや山、海などの風景写真と、幸真会がかつて催した発表会での全員合唱の模様を、コピーで貼り付けました。また次のページには、本條流花笠音頭と、米谷流十勝馬唄の、それぞれの譜面の断片的なコピーを貼り付けました。これらには勿論、当日説明が加わります。

 次に、まずは演奏をお聴き戴くよう、鹿児島小原節、安里屋ユンタ、十勝馬唄、秋田小原節の4曲の曲名を載せました。但しここからは、左半分を日本語、右半分を英語とし、この翻訳に彼女の協力を仰いだのです。

 それから、日本民謡の概論に移り、歴史、分類、曲数、性質などを加え、レクチャーの最後には、民謡で使用する楽器の説明としました。

 ワークショップの頁では、まず五線譜での表記としました。幸真会で使用している楽譜もあるんですが、比較的誰にでも素早く読解できる点から、五線譜がベターだからです。

 お互いが初めてということで、どういう反応になるかが全く予見できなかったので、黒田節、南部牛追い唄、花笠音頭の3曲を用意し、自由に好きなものを選んで戴くか、複数曲可能か、フレキシブルに対応できるようにしました。

 そして最後のページには、日本地図に、今回用いた民謡の県や、楽器紹介で用いた楽器や楽曲を、イラストで指し示して表しました。

さて、当日。

 冊子通りに、コピー写真の説明、演奏、レクチャーと、順次進んでいきました。ある程度は文章で説明してるので、少しばかりの質問がある度に、彼女がバイリンガルを行うのですが、一番そのやり取りが盛んになったのは、やはりというか、楽器の説明の時でした。

 三味線の素材、津軽との違い、バチの材質、尺八の作り方、太鼓など・・・

一つひとつの説明に、頷いては感心し、質問しては納得し、その間、日本語と英語が、バンバン飛び交うのでした。もっとも、私も彼女も始めての経験ですから、テレビで観るような闊達としたものではありませんが、それでもかなりの臨場感でした。

 次に、ワークショップです。まずはサンプルに、黒田節、南部牛追い唄、花笠音頭の3曲を演奏しましたが、この時点で「黒田節がいい。他の曲は非常に日本らしくて、我々には難しい」との注文が入りました。貴重な瞬間だったと思います。
 スケジュール項にもあるように只今「声を巡るワークショップ」を継続中ですが、日本人ならジャンル外の方でも、3曲とも唄うでしょう。

 それは多少なりとも馴染みがあるからかも知れませんが、外国人、それも西洋人には、無拍子系や、祭りの、早く賑やかでハイヤ系のリズムは、難しいと映るらしいです。

 そのリクエストにお応えして、黒田節を一緒に唄いだしました。幸い、オーディエンス全員が五線譜OKだったので、すぐに声は出ました。

 更にその後。
「みんなウズウズしてるわよ、児玉さん」
の掛け声で、オーディエンスが一気に、楽器を載せたテーブルに集まり、それぞれ思い思いの楽器に、直に触れ、音を鳴らそうと試み出したのです。この瞬間、私は「あぁ、そうなんだ!」と、新しい理解をしました。

 唄のワークショップだけを想定してましたが、オーディエンスにとっては、折角の機会、目の前にある楽器に、やはり触れてみたいのですよね。今回持参した楽器は、日本民謡で使う一通り、三味線、津軽三味線、尺八、横笛、太鼓でしたが、人気は、やはり津軽三味線、そして尺八でした。三味線は曲がりなりにもすぐ音は出ますが、一番盛り上がったのは尺八の難しさでした。

 ここで私は、手鏡を取り出して、
「僕の口の形と同じにしてごらん」
と、相手の口元に手鏡を向け、私の口の形と自分の口の形を、両方同時に認識できるようにしました。加えて、その手鏡の表面に息を吹きかけると、尺八の唄口(マウスピース)に向って息を吹きかけるのと同じ角度になるよう、工夫しました。更に、尺八の構え方、楽器の角度などを、私が注意深く調節していくと、数分で音らしくなってきます。日本人も、氏やご夫人も、その時の喜び様は本当に嬉しそうでした。

 但し、演奏者が使う楽器を、安易に他人に触らせたり持たせたりすることは、非常にタブーとされています(洋の東西を問わず。またジャンルも問わず)。

 それでも扱う時は、細心の注意をお互いが払うべきであり、さすがの私でも(笑) この点は十二分に承知しております。それ故今回も、オーディエンスが駆け寄って来た時
「まずは注意を即さねば」
と、瞬時に脳裏に浮かびました。しかし次の瞬間、

* 五線譜が読めるレベルの方々
* 殆どが日本人
* 外国人でも教育者で音楽にも理解あり

という条件から、敢えて、その場のノリに委ねようと思いました。中途半端な注意は、返って魔が差すものだと、経験上分かっていたからです。幸い、事故は起こらず
「貴重な体験をありがとう」
で収まったので、よかったです。

 さて。表題の如く「お土産」になったでしょうか? ご夫妻にはどう感じられたでしょうか?

 後日、彼女から伺ったところ、
「今回の来日で、もっとも印象深く嬉しかったと、伝えて欲しい」
とのことでした。まずはホッと一息です。
また、ご本人も教育者らしく、いくつかの改良点を授かりました。例えば、

* レクチャー部分の日本文と英文は、頁で分けるのではなく、日本語のタイトルや行間、段落ごとに、その行の下部分に英訳を挿入すると、日本語との対比が理解できて、いい。
* 唄の成り立ちや経緯が英訳されていたのは、非常にいい。加えて、歌詞は、唄中では例えば「あいうえお」は「AIUEO」でいいが、歌詞の意味を英訳しておれば、更によかっただろう。
* 説明する時は「テキストのココ」と指差しながら進めてくれれば、分かり易い。
* 楽器をイラストで説明したのは、いい。但し、特徴をエッセンス程度でいいから、英訳しておき、あとはレクチャーで説明するようにすると、早く理解できる。また、楽器の説明で、三味線はcat skin 津軽はdog skin まではいいが、バチが象牙であるとか、べっ甲であることは、今後は伏せておいたほうがよい。我々は理解できるけれども・・・ 

などということでした。

文化の違いはとても大きい。グローバリズム、コラボレーション・・・・

 象牙に関しては、日本人でもそう思いますよね。ジュネーブ条約では近年
「日本に対し、一部の楽器や装飾品に限定して輸出を認める」
となりました。輸入禁止の折りは、手前共の会では代替措置として、べっ甲を奨励し、象牙は、世論や価格高騰もあって、殆ど斡旋はしませんでした。(べっ甲も現在では難しいようですが)

 私が現在使っている象牙のバチも、先代が生前買い置いていたもので、個人的に購入したものではありません。

 もし、日本民謡が世界に広まろうとする時が来るなら、動物の皮(猫、犬、牛、蛇)、木材(花梨、紅木、黒檀)、そして象牙、牛角、べっ甲の説明に対して、(竹や絹にまでは、批判は及ばないと思いますが)あと地域的には、特に白人社会に対して、格段の注意を払う必要があります。

 また、黒田節の一番の歌詞は、豊臣秀吉の小田原征伐の実話がもとですが、朝鮮半島に対して彼の名前は「単なる日本の歴史上の人物」とはいきません。

 食事をする時の挨拶、「戴きます」「ご馳走様でした」は、人間のために犠牲になってくれた動物の魂に対しての、ことばです。野菜などの植物は精霊であり、これに対しても同様です。但し、食べることで、食べた者の血肉となって生き、排泄されてからも循環される点から、「ただ単に殺した」のとは意味が違います。

  これは楽器にも言えることで、人間の文化、芸術の役割として生きているのですから、無駄死にではありません。我々は接するたびごとに、感謝を捧げるのが正しい姿勢だと思います。ただ、世の中すべからく正論が、~であるべきだ、の意見が、

「正しいから問題ない」
では済まされないことが多く、そこには理不尽でも

「強者の理屈がまかり通る」
ことが、往々にしてあります。それらを、どうするか?

 いくつかのコラボレーションでも難しいのに、
「グローバリズム」
「ボーダーレス」
というものが、現場にとってはどれ程のものか・・・

 純国産にして量質共に世界に誇れる民俗文化とはいえ、日本人が洋楽を取り入れたのと同様の広まり方をするかどうかは、未知数でしょう。今回お喜び戴き、また自分にとっても大変良い勉強になったイベントでしたが、もう一つの側面を考えさせて戴くことができた、大変有意義な機会でした。