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和楽器の改良その1 三味線の糸巻き

和楽器の改良その1 三味線の糸巻き

 私の父こと亡くなった先代は、誠に手先が器用で、物を大事にし、おまけに独特な発想力を持っていました。

例えば、「飛行機のタイヤは、着陸時、時速250キロ程のスピードで瞬時に回りきらないために、

     着陸の度に煙を上げて擦り減ってしまう。たとえ時速100キロでも回しておけば、

     少しでもゴム資源の無駄がなくなる」といった具合でした。

実際問題、車輪に何らかの動力機能を持たせる複雑さの方がハイコスト、という結論にはなるのですが、

発想そのものは面白いと思います。

 そんな父がある時、三味線の糸巻きに着目しました。

その昔、三味線は「調子三年」と言われたものです。そしてその糸巻きは、摩擦だけで止まっています。

ヴァイオリン等もそうですが、東洋のように、奏法を固定して音律を変える楽器の場合、西洋のそれに比べて、

摩擦力は程々といった具合になっています。巻く時には指使いの工夫が必要であり、そのため、

特に女性には決して扱い易いとはいえません。ましてカルチャー志向の方にはなおさら苦痛です。

それを何とか、誰にでも簡単にできないか、と考えたのです。

 父は、ギターのギアに注目しました。ただ、

見た目の美しさも重視する日本文化にあって、そのまま流用する事が許されにくいのは百も承知。

そこで、軽い材質のアルミに、糸巻きの形と色を似せて、内部にごく小さなギアを数枚組み合わせ、

握り部分の回転数と糸部分の回転数に差を持たせる、はめ込み式の糸巻きを作りました。これにより、

調子が狂ったり糸巻きが外れてしまうような事が無くなり、且つ微調整も可能になりました。

ただ、ギアを内蔵するため、既成の三味線の糸巻き穴より若干大きく、

そのまま即取り付けという訳にはいかなかったので、最終目標の特許申請までには至らず、

ある程度作った備品も、先の大震災で大半を失い、当時父が取り付けた方がほんの数名、

今でも壊さないように注意しながら、細々と使っているという現状に帰結してしまいました。

 固定概念の強いジャンル。関係者と激論を戦わせたり、独占を防ぐために複数の工場を掛け持ちしたりと、

製品化にこぎつけるまで、かなりの苦労があったように記憶していますが、

このままでは不世出のアイデアとして、世の賛否を問われる事もなく消えて無くなってしまいます。

それが運命なのでしょうか。

 私は二代目として、そして息子として、今残っている特製糸巻きが健在の間に、何とかしたいと思うのですが・・・

 「蛙の子は蛙」。実は私にも、ある試みがあります。詳しくは次回にて。