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和楽器の改良その2 尺八のチューニングスライド

和楽器の改良その2 尺八のチューニングスライド

 このコラムで何度かお話ししていますが、私は民謡とJAZZを融合させた音楽を手掛けています。

今回は、その時の尺八での体験をお話しします。

 ある年の冬のライブで、尺八のピッチ(音程)がどうにも低くて困りました。

本来は一尺八寸なのですが、やむを得ず七寸管を少し抜き気味にして演奏しました。

当然乍ら音程はバラバラ。その時、私もメンバーも同じ事を思いました。

「チューニングスライドが必要だ」

 私は早速、尺八職人さんや和楽器店を回りましたが、予想通り(と言っては失礼か)全く埒があきません。

「必要ない」「尺八に合わせてもらえ」云々・・・かと思えば、

リコーダーのように半音階用の二つ穴の尺八がある、と得意気だったりします。

JAZZのアドリブにバップさえ取り入れる私の場合、

指使いは合理的な琴古流式に、尺八本来の、メリ、カリ、という微調整奏法を加えて演奏しており、

更に二つ穴が加われば、それはそれで確かに有利ではあるでしょう。しかし今回の件に関しては、

作り手と演奏者が同等同様の現状と向き合っておらず、そして残念乍ら、私の要望の意味は理解されませんでした。

 それをある時、「北野タダオとアロージャズオーケストラ」に所属する後輩に話したところ、

ケーナにチューニングスライドをつけて演奏しておられる、同じ所属の方の取り付け工事をした方が、

山口県に在住しておられる、と言うのです。「やはり妄想ではない。需要はある。時代は進んでいる」

 私は確固たる確信を持って、すがる気持ちでその方にお電話をしました。そして、

幾つかの試作品を経た後、ついにチューニングスライド付きの尺八が出来上がったのです。

「作業は、旋盤さえあれば至って簡単」というお言葉にも、私は更に胸踊る心地でした。それは、

簡単な力で大きな改革、それを誰もが楽しむ、という私のポリシーに叶うものだからです。

合理化を得意とする西洋人によって今日の進化を遂げた洋楽器のそれに比べて、上記の一連は、

児戯に等しいものでしょうし、細かな点ではまだ改良が必要ですが、尺八にとっては間違いなく、変化の一つです。

 私は、父のような器用さには及びませんが、

個人の発想から、何らかの表現を経て、世の中の動きになっていくという一連の流れを、

和楽器の改良というテーマに於いて、親子二代で体験させて戴いたような気がしました。

 誤解のないように申し上げますが、

私達は決して、代々伝えられた文化遺産を根底から覆えせなどと言っているのではありません。

視野を広げ、価値観を多様化させる事が本物を残す道と、申し上げているのです。

ただ、世の中に於ける、可能性の無限と常識のはかなさを、改めて考えさせられた出来事なのでした。