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新作初演を終えて

新作初演を終えて

 去る平成14年3月28日19時、神戸ハーバーランド松方ホールに於て、金子浩三ピアノリサイタルが催され、

各階に立ち見も出るほどの超満員のなか、盛況裡に幕を下ろす事が出来ました。

出演者の一人として、チケットご購入やご来場、ご協力賜った皆様方に、重ねて厚く御礼申し上げます。

 私にとって今回のような新作初演というのは初めての経験でしたので、

今月のコラムは、それにまつわるお話と致します。

 まず、伺ったお話によりますと「新作初演」にありがちなのは、譜面の仕上がりが遅い事なんだそうです。

極端な例になると、当日ゲネが初見というのも珍しくないとか・・・もっとも今回の作曲者、

神戸山手女子高校音楽主任矢野正文先生は、充分日程を考慮して仕上げて下さいましたので、

まるでJAZZライブにありがちな、スリルとでも申しましょうか、読譜力テスト的なとでも申しましょうか、

それは幸か不幸か、味わう機会はありませんでした(笑)

 またゲネプロの時、調律士の方からのご指導には感服致しました。

反響板仕様の舞台では、立ち位置がほんの20cm前後するだけで、響き方や音量はともかく、音質まで変わるというものです。

特に前部分、客席側からの距離が微妙で、本番の私の椅子の位置と向きは、そのアドバイスを受けて決まりました。

こういうプロの腕、感性・・・事繁き平生にかまけてどうしても失い、封印してしまいがちですが、

舞台に立つ者ならば絶対に忘れてはいけないものでしょう。せめて常時とはいかずとも、

ON,OFFのスイッチは必要だと、改めて勉強させて戴きました。

 それから、今回は色んなお立場の作曲者や演奏者が聴きにこられたという事です。

作曲者は今後、津軽三味線と他楽器、他ジャンルのコラボを創作する際の重要な参考になさるし、

演奏者は、私の技量を確認し取捨選択して今後に生かそうとなさいます。

勿論私などは、今を時めく木下伸市氏や上妻宏光氏のような技量は持ち合わせていませんが、

矢野先生の日本音楽に対するご憧憬と斬新なアイデアが生かされた素晴らしい作品の中で、

また金子先生の素晴らしい演奏の傍らで、自分なりのカラーは出させて戴いたつもりです。例えて言うなら、

スピード、パワー、テクニックの3つが津軽三味線の神髄ですが、今回の私は既存のセオリーを踏襲しつつも概ねその逆、

つまり、間、ハーモニー、そしてクロマチックの3つを主なポイントにしました。これらは全て、

今までの津軽三味線の概念からは考えられなかったものばかりです。そのせいか評価の一部には、

「期待を少々はぐらかされた」ともお聞きしました。しかし、ピアノコラボという新しい事をするのですから、

「発見」と解釈して戴ければ有難いと思います。

 一方、観客のマナーに少し気掛かりな部分がありました。 

ピアノと詩吟との舞台でカメラフラッシュが光りました。また、

吟が終わると、ピアノはまだ弾いているのに拍手が起こりました。

これらは恐らく、詩吟の先生の門下生かご贔屓の方でしょう。お気持ちは分かるのですが、

撮影、録音の類いは禁止されております。ましてあからさまなフラッシュは、演奏者への心理を逆撫でするものです。

また、ご贔屓といえども主役はあくまでピアニストです。喩えは悪いかもしれませんが、

カラオケのように唄が終わったら拍手というのは、失礼です。こういう事だから、

邦楽関係者は洋楽から蔑視されるのです。これらは、そのお師匠さんがお膝元でしっかりと指導しなくてはいけません。

 さて。今回私自身が経験させて戴いた中で最も充実していたと感じた事は、演奏に於ける運指法でした。

五線譜での演奏は当然ですが、クラシックスタイルは、

弊会十五周年記念での小橋名誉教授や、同氏卒寿音楽会などの一連からで日も浅く、

作曲者も三味線に接するのが初めてという中での新作初演という事で、あくまで私に委ねられていましたから、

効率の良さ、音の良さ、音楽的な物語性、そして新しさなどをベストに持っていく運指法を考えるのが、面白かったのです。

これは本来、弦楽器には宿命ともいえる事ですが、長唄ジャンル以外の殆どの三味線譜は独自の表記をするので、

今回の試行錯誤は大変勉強になり、また楽しかったです。

 金子先生がおっしゃっていたように、確かにピアノは合理的ではあるが平均律ゆえに不自由さもあります。

そういう知識なども含めて今回のコラボは、私にとってはそれほど真新しいものではありませんでしたが、

例えば前述の立ち位置のように、音に対するシリアスさでは第一級のテンションでしたし、

今回ならではの新しい発見や経験は沢山の収穫として、私に齎して戴いた舞台でした。

今後更に色んな方々との出会いを重ね、努力精進して参りたいと思います。